22 刑事ノート

連続爆弾爆発事件が解決した。
捕まえてみれば単なる馬鹿な大学生の仕業だった。
事件は市内の複数の空き地で相次いで発生した。使用された爆弾はインターネットで製造方法が公開されている簡易爆弾で、これに遠隔操作装置を取り付けた代物だった。一日に一件の割合で一週間続いたこの爆弾騒ぎは、犯人逮捕により終焉を迎えた。
野村と名乗るこの男は、かなり割に合わない仕事(犯罪)に精を出していた。彼は爆弾の製造、ロケーションハンティング、爆弾の設置から張り込み、実行等この犯罪に必要なありとあらゆる仕事を一人でこなしていた。そのワーカーホリックぶりはある意味敬服に値するほどであった。
彼の目的に見合う空き地を見つけるのはそれほど簡単ではなかった。空き地のすぐ近くに自動販売機がなければならなかったからである。彼は市内を隈なくロケーションハンティングし、候補地をいくつか見つけた。
早朝、候補地のひとつに赴き、周囲の状況などを再確認し、決行を決意すると、爆弾を設置し、その後、自動販売機から数歩のところでひたすら待つのが彼の日課だった。何を待つのかというと、千円札で自動販売機の商品を買う客が来るのを待つのである。そして客が千円札を自動販売機に投入した瞬間、爆弾を爆発させる。すかさず駆け寄り「テロだ!逃げろ!」と叫び、客を逃がすと、自動販売機の釣銭返却レバーを押し下げて、まんまと千円札をゲットするのである。
捜査が難航した理由は、千円のためにこれほど手間のかかる犯罪を考え実行する馬鹿がいるとは思いもよらなかったからである。
最終的に、空き地に爆弾を設置しているところを目撃された彼は、市民の通報により逮捕された。

連続発砲事件が解決した。
捕まえてみれば単なる馬鹿な中学生の仕業だった。
捜査は発砲音を聞いた市民による通報により始まった。相次ぐ通報ラッシュに電話当番はてんてこ舞いした。発砲音は広範囲に及び、耳にした人々は例外なく市民の義務を果たしたかのようであった。どうせ誰かが通報するだろう、関わりたくない、といった事勿れ主義に流される人も当然いたはずだが。
通報が相次いだのは、犯人が移動しながら複数回発砲したことも大きな一因であった。三十分間に渡り犯人はA、B、C、D、Eの各地点にて発砲したのである。
地図上に発砲があったと思われる箇所に印をつけ、それぞれの印の横に発砲された時間を書き加えて眺めると、犯人が徒歩で移動したことが推定された。ルートは住宅街だったが、平日の真昼間の住宅街は盲点であり目撃情報はなかった。ただ単にこの点に関して犯人は運が良かっただけとも言えるが。
ルートの出発点(A地点)は中学校の近くであり勘の良い捜査官が中学校に問い合わせその日早退した生徒を突き止めた。彼の家はルートの最終地点(E地点)の近くにあり実際に彼が犯人だったわけである。
モデルガンを改造して殺傷能力のある武器に変え、通学路の各地点で発砲しながら帰宅する。こんな馬鹿は前代未聞だと言えば言い過ぎだろうか。
ともあれ、いたずらに命を狙われたカラスたちに同情する。

連続クレンジング事件が解決した。
捕まえてみれば単なる馬鹿な社会人の仕業だった。
事件はなかなか表面化しなかった。ひとたび事件として扱われニュースになると私も私もと雨後の筍のごとく同様の被害を訴える女性が続出した。あまりにも信じがたい現象に遭遇した彼女たちは、第三者に訴えても信じてもらえないだろう、白い目で見られるのがオチだろうと最初から訴えることを諦めていた人たちだった。
それというのも、彼女たちは出勤途中に一瞬顔に冷んやりするような違和感を覚え、鏡を覗き込むとなんとビックリ、化粧がすっかり落ちたすっぴんの自分を発見するのであった。一瞬疑心暗鬼に陥る。化粧し忘れた?いやいや、あり得ない。
事件が表面化するきっかけとなったのは、犯人がミスって被害者の目を傷付けたことだった。目を誰かに傷付けられたと訴えた女性はおまけのようにひっそりと目を傷付けられた時にどうやらクレンジングもされたらしいことを警察に伝えた。
この事件では監視カメラの記録映像が大いに役立った。被害者が複数存在することも功を奏した。カメラは犯行の決定的瞬間を捉えることは出来ていなかったが、被害者たちのそばにはいつも必ずひとりの女がいたことが判明したのである。
その女、尾形が犯人だった。決して容姿端麗とは言えない尾形は、美人を見ると化粧という名の皮をひっぺがしてやりたくてたまらなくなるのだった。尾形は超高速で動くことが出来た。目にも留まらぬ早業でクレンジングすることなど朝飯前だった。
美人が一瞬にして目も当てられないすっぴんを曝す。尾形にとってそれは無上の喜びだった。

連続酔っ払い襲撃事件が解決した。
捕まえてみれば単なる馬鹿なニートの仕業だった。
ニートの二宮は就職活動がうまくいかない憂さ晴らしに猫そっくりのロボットを製作した。AI(人工知能)を搭載したロボットで名前はネコパンニャン。ネーミングからして二宮のふざけた性向が見て取れる。
二宮はネコパンニャンを人気のあまりない深夜のアーケードに放ち、ネコパンニャンに仕込んだカメラから送られてくる映像をスマートフォンで受像し、アーケードから程近い路上に駐車した自家用車の運転席で、リアルタイムで視聴していた。ネコパンニャンは酔っ払いを見つけると酔っ払いに近づいて脚に擦り寄り、酔っ払いが屈んで頭を撫でようとすると強烈なネコパンチを繰り出すようにプログラミングされていた。
ネコパンニャンはその夜、何人もの酔っ払いをノックアウトした。その度に自家用車の運転席で二宮は笑い転げた。
深夜三時を過ぎ、そろそろ潮時だと判断した二宮は徒歩でネコパンニャンの回収に向かった。二宮は最高の気分だった。ネコパンニャンは二宮のイメージ通りに動き、イレギュラーは皆無だったのだ。
二宮がアーケードに脚を踏み入れると、ご主人様、褒めてください、と言わんばかりにネコパンニャンは二宮の前に姿を現し、脚に擦り寄ってきた。二宮は屈んで、よくやった、と褒めてやろうとネコパンニャンの頭に手を伸ばした。
二宮は一瞬何が起こったのか分からなかった。気付いた時には仰向けに倒れていた。ネコパンニャンの強烈なネコパンチを食らっていたのだった。
誤作動ではなかった。二宮が自分の能力に酔っていることをネコパンニャンは見逃さなかったのである。
ネコパンニャンにノックアウトされた酔っ払いの何人かはその足で交番に駆け込み、被害を訴えていた。ちょうど警察官がアーケードに着いたタイミングで、二宮はネコパンニャンにノックアウトされたのだった。
二宮は当初被害者の一人と思われたりもしたが、結局逮捕された。

連続転倒事件が解決した。
捕まえてみれば単なる馬鹿な高校生の仕業だった。
被害者たちの誰ひとりとして当初は自分が何者かの未成熟で無思慮で浅はかな思惑の餌食になったとは思っていなかった。ただ単にコケたのであり、原因は何かと辺りを見渡してみても、平坦な道があるだけで、凹凸もなければ靴紐がほどけているわけでもなく、周囲に脚を引っかけることが可能な人もおらず、なぜコケたのか原因の特定には至らなかったが、それでも原因はなんであれ当然自分にあると認識し、自分以外の何者かに責任転嫁することはなかった。
それが事件として認識されるようになったのは、動画投稿サイトに投稿された一本の動画のためだった。その動画は「目の錯覚を利用して人をコケさせたったwww」と題された三分弱の動画だった。動画では一人ずつ、合計十人の男女が何もない平坦な道で突然コケていた。コケ方は十人十色で、それはさながらコケ方カタログの様相を呈していた。
動画のコメント欄は炎上状態となり、動画そのものも拡散された。
もともとの動画は犯人が仲間内だけで楽しむために撮影し、共有していたものだったが、こういったオモシロ動画をいつまでも狭い籠の中に住まわせておくことは不可能だ。
逮捕した高校生は我々の求めに応じて我々をコケさせた。高校生は白い画用紙に黒いペンである図形を描いた。その図形を三秒見ると誰もがバランスを崩し、コケると説明したそばからその図形を立って覗き込んでいた警察官がコケた。
高校生は自ら考案したこの図形を描いた画用紙を電信柱に貼り付け、離れた所からカモを撮影していたのだった。誰もコケて大怪我しなかったのは不幸中の幸いだった。