8 雨月物語・前世の恨みを晴らしハレバレ

女盛りの白峰法子さん(三十九)は四日、高級高層マンションの隣人を甘くて黒い宝石・チョコレートを餌に自宅に招き入れ、猟奇的に殺害した件について、坂出市内のホテルで記者会見し、「前世の恨みを晴らしてやった」とハレバレとした表情で語った。
法子さんによると、法子さんは前世で、言葉にできないようなひどい辱めを、今回(今生)被害者となった隣人の沢嶋良子さん(四十)に受けた。具体的な内容については「話せる時がきたら話す」としている。その時、聞いてくれる人が法子さんのそばに居てくれることを願うばかりだ。
法子さんの夫のロバートさん(四十一)は今回の件で「マンションの資産価値が下がるのは確実」と禿頭を抱えている。これには一人息子の実君(九)も「おれも将来禿げるのかな」と今から心配している。実君にとってはあまり喜ばしくない事実だが、ロバートさんの家系は代々禿げを輩出しているという。実君もあまり遠くない将来禿げるだろう、というのが大方の見方だ。
被害者の夫の辰巻さん(四十)は「まさか女房が、前世で言葉にできないようなひどい辱めを、法子さんに加えていたとは」と驚きを隠せない様子で言葉を詰まらせ、複雑な苦い表情を浮かべると、「ともかく夫として、法子さんに謝罪したい」と口にするのがやっとだった。「自分がひどい目にあう前にやっつけてくれた法子さんに感謝することも忘れないようにね」と付き添いの妹さん(三十五)に助言されると、辰巻さんは何度も大きくうなずいた。
その時、チリンチリン、チリンチリンと自転車のベルの音が、マンションの前の歩道で、取材とは名ばかりの雑談をする私達の耳に快く響いた。前籠にスーパーの袋を入れた中年女性の自転車が、こちらに向かって来る。道をあけると、女性は顔を真っ赤に上気させ、私達には目もくれず、そこを通り抜けた。その女性に、どことなく良子さんの面影を認めた私達は、無言で遠ざかる彼女を目で追った。
良子さんらしき人物を乗せた自転車は、横断歩道の手前で地面を離れ、赤信号の歩行者用信号機を越えると、さらに高度を上げ、空の高みへと、ぐんぐん、ぐんぐんと昇っていった。