11 雨月物語・中国国籍の李さんが夢を見た

滋賀県大津市に住む中国国籍の李魚さん(二八)は七日、急に土産が三つ必要になり、一階に土産物屋がある老舗料亭に向かって歩いていて、町内にうねるようにドイツとアメリカの国境線があることに気付き、驚愕する夢を見た。
土産物屋兼老舗料亭は、夢の中では李さんのアルバイト先であり、ドイツ側にあるが、風景も行き交う人々もそこが日本であることを示していた。国境線は隠されていたわけではなく、あまりに平然と存在していたため、誰の気にもとまらなかったのだった。
土産物屋兼老舗料亭につくと、オフの日に土産を買うために顔を出した李さんを、従業員たちは歓迎してくれた。李さんはお皿を三枚買うつもりだったが、女将さんや、お皿を作っている先生(四十代女性、料亭の二階でお皿作りの教室を開いている)に、李さんにお皿を売るのは申し訳ない、と言われる。どうやら値段ほどの価値はないらしい。そのまま手ぶらで帰すのは悪い、と老舗料亭のオーナー一族の重鎮(引退していて足が悪い)のおごりで、ラーメンを食べに行くことになる。その店はアルバイト仲間の女の子のお母さんがアルバイトしている店だった。
道中、オーナー一族の重鎮に豪雨が襲いかかる。ベテラン奉公人が、つっかえ棒のように自身の身体を主人の身体に押しつけて、悪い足の方に倒れそうになる主人を必死に押し返していた。肩を組めばいいのに、と李さんは思うが、口には出さなかった。雨が降っているのはこの場面だけだった。
川岸から川に魚を放っている光景を李さんは橋の上から目にした。慈善活動のように見えたが、魚の頭は切り落とされていた。頭のない魚は、川底に縦に一列に並んでいた。
帰り道で李さんは悟った。アルバイト仲間の女の子と会うことはもう一生ないだろう。ラーメン屋に女の子のお母さんの姿はなく、それは女の子が新しいアルバイトを見つけたことを意味していた。