12 雨月物語・死体を盗まれた男が盗難届?

「物騒な世の中になったものだ」と嘆きたくなるような事件がまた起きた。もっとも俺自身は、ナイーブとは無縁なデリカシーの欠片もない腐れ***なので「物騒な世の中になったものだ」などと嘆きたいなどとは微塵も思わないのだが。うがった見方かも知れないが、人は「物騒な世の中になったものだ」と嘆くことで、健全な自分を確認&アピールしたいのではないか。そう思ったところで俺が何か得をするわけではないのだが。
さて、前置きはこのくらいにしてさっそく本題に入ろう。「時短」「時短」と叫ばれている世の中でもあるし、一記者の戯れ言に付き合っていられるほど読者の皆様が暇ではないことくらい、デリカシーの欠片もない俺だって十分承知しているからだ。「時短」というのはつまり「さっさとやれ」ということだろう。自慢でもなんでもないが、コンビニのレジでちょっと待たされただけでもイライラする俺だ。さっさと本題に入らない俺に、読者の皆様がイライラしないなどとどうして考えられるだろう。それに本題に入らない理由もないしな。
つまりこういうことだ。どうやらどっかの男が「死体を盗まれた」として警察に盗難届を提出したらしいのだ。「らしい」というのは他社の記者が携帯電話で誰かにそんな話をしているのを俺が盗み聴きしたからで、いわゆる「伝聞」だからだ。それを隠すつもりはない。報道倫理に反するからな。タイトルに「?」を付けたのもそのためだ。
盗み聴きした内容を同僚に伝えると、そいつは「情報が少なすぎて全体像がまったく見えないが、まあ、死体を盗むやつも盗むやつだが、盗まれたやつも盗まれたやつだよな」と言い、鼻で笑った。そんな、ニヒルを絵に描いたような同僚を、俺は同僚を上回るニヒルさでせせら笑った。俺の胸の内には「そういうニュアンス勝負の言い方だと、自動翻訳機には絶対に伝わらないだろうな」との思いがあった。常に自動翻訳機を意識している俺なら「盗むやつも馬鹿だが、盗まれたやつも馬鹿だよな」と言うだろう。俺が胸の内を明かさなかったのは、やつに成長するチャンスを与えるつもりなどこれっぽっちもなかったからだ。