14 次男殺害で恋人の行方を捜索

十六日午前、和歌山県新宮市で漁業を営む大谷竹助さん(五十六)宅の二階の一室で次男の富雄さん(三十)が遺体で発見された。
富雄さんの遺体の頭には、釘が十本打ち込まれ、右の鼻の穴には箸が一本、左耳には耳掻きが一本、肛門には皮付きのバナナが一本突き刺さっていた。釘はシルバーの新品で錆はなく、箸は漆塗り、耳掻きはグッドデザイン賞受賞作品に似せて作られた一品、バナナはフィリピン産だった。右眼はくり抜かれ、くり抜かれて空いたスペースに切り取られた睾丸がひとつ、睾丸を収納していた袋には、くり抜かれた右眼ともうひとつの睾丸が寄り添うように納められていた。左肘にはオレンジ色の蛍光ペンで「ぶた」と、右膝にはラベンダー色の蛍光ペンで「やぎ」と落書きされていた。頭髪の一部分は剃り落とされ、左脇に乾くと透明になる木工用ボンドで貼り付けられていた。右手の爪はすべてはがされていたが、左手の爪にはネイルアートが施されていた。親指の爪にはあみだくじのようなブロック塀、人差し指の爪には縁日に金魚すくいをする浴衣姿のあどけない少女、薬指の爪には近所の評判も上々な笑顔が絶えないサラリーマン一家の休日の夜の食卓の風景、中指の爪にはマウンテンバイク、小指の爪には渦巻き状に赤色のハートマークが十八個描かれていた。性器は切り取られて葉巻のように唇に挟まっていた。歯はあらかた引っこ抜かれて中心に微小な孔が穿たれナイロンの釣り糸が通されてネックレスとして首にかかり、アクセントとして右手の爪が使用されていた。そして胸部から腹部にかけて左右の乳首と臍を結ぶ三角形がボールペンで皮膚を破るほどの筆圧で刻まれていた。
その他の部位にはこれといった外傷は認められなかった。
この異様な事件に困惑した私は、魔術関係の本を何冊か所有する古い友人Aに意見を求めた。Aは「儀式くさいな。外傷のひとつひとつに何らかの意味があるはずだ。まずはそれらを解明する必要がある」と眉間に深い皺を寄せた。また推理小説を二十冊以上読破している古い友人Bに意見を求めると、Bは「加害者は、他人には決して知られたくない何かを隠すために、カムフラージュとして様々な外傷を加えたに違いない」としたり顔で答えた。さらに中学時代、数学の成績が5段階評価で3だった古い友人Cに意見を求めると、Cは「三角形の内角の和は180度。この事件は180度ひっくり返る可能性がある」と自信たっぷりな様子で眩しそうに眼を細めた。そのあと私は事故で左脚を複雑骨折し入院中の古い友人Dを訪ねた。Dは「ロング・バケーションってやつだな」と微笑し、現状を前向きに捉えているから心配無用だという配慮を見せた。私はDに、この事件に関する意見を求めなかった。
何はともあれ大谷さん宅には前日夜から富雄さんの恋人が宿泊しており、恋人は明け方、仕事の支度をする大谷さんに「じゃ」とあいさつして家を出てから連絡がとれなくなっており、警察は何らかの事情を知っているとみて、現在恋人の行方を捜索している。