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17 子供の領分・ある事件、ひとつの教訓

昭和六十一年。地方の小学校で、ある事件が発生しました。
事件といっても、今では関係者の誰一人として記憶していなくても不思議ではないくらいの、あまりにささいな事件です。舞台は一年四組の教室。S君の親友のT君の筆箱がなくなったのです。ある日の午後のことです。どういうわけか、T君がどこかに置き忘れたか、どこかに落としたかしたのではなく、誰かがT君の筆箱を隠した、という前提で、担任の先生の指揮のもと、クラス全員での捜索が行われました。まずは教室内を捜しましたが見つからず、捜索範囲を教室外にまで広げましたが、やはり見つかりませんでした。
そこで先生はクラス全員を教室に戻し、子供達に話をしました。その内容は、このまま見つからないのであれば、警察を呼ぶしかない、というものでした。
それを聞いて泣き出す子供がいました。S君です。先生はもう一度捜そう、と子供達を解き放ちました。すると、あんなに捜しても見つからなかった筆箱が、あっさり見つかったのでした。
十数年後。S君は何の前触れもなく、この事件を思い出しました。そして嫌な気持ちになりました。「先生は泣き出した僕を犯人だと考えたのではないか」そう思ったからです。
S君はこのことから、ひとつの教訓を得ました。それは次のようなものです。大人の論理で、子供の感性を測ってはならない。