47 クレーマーを異常者扱いしてはならない。

サービス業に従事していればクレーマーに必ず行き当たるものでクレーマーとの関係に過大なストレスを感じるようであれば仕事を続けることが難しくなる。そこでクレーマーとどう付き合うべきか、クレーム対応のプロではないがサービス業に長年にわたり従事している私からささやかなアドバイスを悩める子羊たちに授けたい。
まず大事なのが(そしてこれが全てなのだが)、クレーマーを異常者扱いしてはならない、ということである。むしろ私のほうが異常者である、あるいは、私のほうが異常者としてあなたより上手である、とクレーマーに認めさせることが大事だ。異常者と関わりたくないというのは健常者はもちろん異常者も同じで、こいつはヤバイ、と思わせられればこっちのものである。ではどのような方法で私が異常者であることをクレーマーに分からせればよいのか?それは特別難しいことではない。
人間には攻撃性がある。生きるということは生易しいことではなく、闘いの連続であり、攻撃性のない生き物は淘汰され存在することができない。クレーマーにも当然攻撃性があり、あなたを攻め立ててくるが、あなたは決して反撃してはならない。すると人間に本来備わっているはずの攻撃性(反撃もその一部である)があなたにはない、とクレーマーは感じ始め、やがてクレーマーは人間ではない者に対峙しているような不安に襲われる。こうなればクレーマーの意識の中で、こいつはヤバイ、との認識に至るのは時間の問題だ。これはクレーマーのあなたに対する嫉妬心が同情に変わる瞬間でもある。どういうことか?
クレーマーは社会のルールではなく自分のルールで考え行動する。そして社会のルールと自分のルールのズレに常に苦しんでいる。不満は溜まる一方であり、世の中は上手くいかないことばかりだ。風船が永遠に膨らみ続けることができないように、クレーマーもいつか爆発する。社会のルールに従い安穏な生活を送る人々(これ自体がクレーマーの幻想なのだが)に対する嫉妬心の餌食に不運にもあなたは選ばれてしまう。クレーマーにとってあなたは社会のルールを代表する人間なのである。よって反撃をすることがどれだけ愚かしい行為かわかるだろう。クレーマーは自分のルール的に正しいことを言い、あなたは社会のルール的に正しいことを言う。これでは泥試合でありいつまでたっても家に帰れない。クレーマーは社会のルールを代表するあなたを挫こうとして必死になり、あなたを掴んで離さない。
しかし社会のルールを代表するはずのあなたの様子がどうも変だ、全然反撃してこない、となればクレーマーはやがて気がつく。どうやら私は勘違いしていたようだ。こいつは社会のルールを代表する人間ではない。こいつも私同様社会のルールから落ちこぼれた敗残者だ。しかも攻撃的な相手に反撃することもなくただただ殴られ続けるだけの弱者だ。私は自分のルールを持っているがこいつは自分のルールすら持たないかわいそうなやつだ。こんな何の拠り所もなく彷徨う幽霊みたいなやつを攻撃して何になる?
かくしてクレーマーの同情を獲得したあなたはクレーマーに勝利するのである。もちろんあらゆるクレーマーに対してこの方法が通用するわけではない。むしろ通用しないクレーマーのほうが多いだろう。しかし嫉妬心を含め、私たちが心と呼ぶものを少しでも持っているクレーマーには効果があるはずだ。