51 妹の話

夕食後、居間の座椅子にあぐらをかき、ぼんやりとテレビを見ていると、階段を下りる重々しい足音が聞こえ、一週間ぶりに妹が姿を現した。
俺の斜向かいに腰を下ろす。
俺はうるさいことは言わない。風呂に入れとか。ただ妹の髪を見て、そろそろ散髪してやる時期だな、と思う。
俺は妹と二人で両親の遺した家に暮らしている。二人で暮らすには、広すぎる家だ。
「どうした?」と訊くと、妹は「お兄ちゃん」と優しいような弱々しいような声を出す。
俺は要領を得ない妹の話に真剣に耳を傾けた。
妹は一時間くらい話していただろうか。妹が去ると俺は「録音しとけばよかった」と思った。
記憶を頼りに、俺に理解できた範囲内でまとめたものが、下記の文章だ。

割りを食った人は苦虫を噛み潰したような顔をする。割りはとても不味いのだ。食えたもんじゃない。
割りはそのへんで容易に捕獲できるものではない。辺鄙な地域の厳しい自然の中にある湿った岩肌の高いところに張り付いていたりする。不味い割りを捕獲するためにそんな場所まで行く人はいない。割りに合わないからだ。
割りは賢い生き物である。食糧を均等に分けるのが得意で親が子供達に食糧を均等に取り分けるため子供達が食糧をめぐって喧嘩することはない。割りが用いる算術。それが割り算の起源である。
割りはとても器用だ。一本の枝を裂いて二本にしてその二本を操り物を掴むのだ。それを見た人が割り箸を作った。
割りはそれ自体はとても不味いが他と組み合わせると食える。食えるというレベルで特別美味になるわけではない。例えばキノコと組み合わせる。すると割りは割り自体よりは美味くなるがキノコはキノコ自体よりは不味くなる。「割りと美味い」とかという言い方があるが「割り」と組み合わされたこの「美味い」は単独の「美味い」よりレベルとしては一段低い「美味い」である。割りには相手の力を半減させる力がある。

俺はどちらかと言えば悲観的な人間だ。
妹の面倒を一生みることになるだろうと覚悟している。