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53 サナトリウムと精神病院

丘の上に双子の建造物があります。麓から見上げると、その上方の一部分がわずかに見えるだけです。丘の全体に生い茂るマツや、ヤブツバキ、モチノキなどの植物群が、視界の大部分を覆ってしまうからです。丘を登り下りする道はいくつもあります。車が通れる道は、一本だけです。黄色いナンバーの小さな白い軽自動車や、黒塗りのセダン、タクシー、ワンボックスカーが登っていき、しばらくすると下りてきます。誰かを乗せていき、誰かを下ろしてきたのでしょうか。あるいはそれは業者で、なんらかの物品を納入してきたのでしょうか。車が走り去り、エンジンの音やタイヤが砂を踏む音がきこえなくなると、あたりは先程よりもいっそう静かになったような気がしてきます。上方の一部分がわずかに見えるだけとはいえ、麓から見上げるだけでも、双子の建造物の西棟は白く、東棟は黒ずんでいるのがわかります。白い西棟がサナトリウム、黒ずんだ東棟が精神病院です。サナトリウムには、女性しか入所できません。そして、精神病院に収容されているのは、男性のみです。そういう仕組み、決まりなのです。この丘の上の双子の建造物は、もともとは小学校でした。大きな津波がきたとき、この小学校に避難した人たちは助かりました。津波にのまれた町は廃れ、小学校は廃校となりました。そのあと、心霊スポットとなり、それからずっと何年もたって、サナトリウムと精神病院になったのです。

 

この複合施設に、地元の人は一人もいません。みんな、遠方からやってきた人たちです。かってしったる場所から遠く離れることに意味、安心があるのでしょう。談話室や共同寝室の窓から見える光景、自分の記憶と結びついたものがない景色、廃れた町や、その向こうに広がる海原。見つめていると、空っぽになります。この空っぽの状態が心地よく、なにより大切だと思えるのです。もちろんそれは、サナトリウムの女性たちの話で、遠方からやってきたという共通点があるにしても、精神病院の男性たちは、そうではありません。壁が黒ずんでいることからもわかるように、精神病院の方は管理が行き届いておらず、鉄格子が嵌められた窓は白っぽい埃で汚れて中からはおそらくろくに外は見えないでしょうし、たとえなにかが見えたとしても、それは海ではありえません。サナトリウムに遮られて、精神病院から海は見えないのです。かつての小学校時代は、この三階建ての双子の建造物の二階部分に、両棟を繋ぐ渡り廊下がありました。いまは取り壊されて、両棟を行き来することはできなくなっています。両棟の往来を阻むものは、そればかりではありません。精神病院は、高い鉄条網と有刺鉄線に周囲をぐるりと取り囲まれてもいるのです。サナトリウムの談話室や共同寝室からは海が見えますが、ひとたび廊下に出ると目に入るのは、黒ずんで古びた怖ろしげなコンクリート、錆びた鉄格子、白く汚れた窓、風雨にさらされ色あせた鉄条網、トゲトゲの有刺鉄線です。女性たちはどことなく厳粛に、それらを見つめます。笑うことはありません。目が汚れると文句を言うこともありません。彼女たちはなにを思って見つめているのでしょうか。苦しみにあえぐ男性たちが、無事に恢復することを願い、祈っているのでしょうか。どうやら、そうではなさそうです。

 

サナトリウムの女性たちに、仕事というものがあるとすれば、それは生活圏を清潔に保つために、毎日午前中に実施される掃除、洗濯くらいです。白いタイル張りの共同寝室、白いシーツ、白い陶器の便器、浴槽、鏡、長いリノリウムの廊下、ステンレスのシンク、どこもかしこもきれいすぎるくらいきれいです。それこそピカピカのツルツルなのですが、それでも毎日きれいにしています。一日二日休むことなど、だれも考えもしません。精神病院からは頻繁に、昼夜を問わず、男性患者たちの苦悶の叫び声が洩れきこえてきます。サナトリウムと精神病院は隣接していますから、それゆえ洩れきこえてくるというわけでは、実はありません。津波の後、町の人口は急激に減りましたが、もちろんまったくの無人になったわけではありません。患者の叫びを、外部に垂れ流すわけにはいきません。そのため、病院内は防音加工が施されています。それではなぜ、サナトリウムにいながら、患者の叫び声がきこえてくるのでしょうか。それはサナトリウムの廊下側、東の壁にいくつものスピーカーが、巧妙に埋め込まれているためです。病院内に設置されたマイクが拾った音声が、これらのスピーカーから流れるようになっているのです。就寝時は音量が下げられますし、雨音がうるさい日は音量が上げられたりします。女性たちは黙々と、敬虔に、雑巾を絞ったり、シーツをまとめて洗濯乾燥機に押し込んだり、洗剤を吹きかけたりしながらも、耳はスピーカーから洩れきこえてくる音を拾っているのです。音から、なにが行われているのか知ろうとしています。果たして自分が提案した治療法は採用されたのだろうかと。

 

スピーカーが埋め込まれているのは、談話室と共同寝室のある二階と三階だけです。一階は業者の人たちの出入りがありますし、一階にある調理室ではコックさんをはじめとした調理スタッフが立ち働いていますし、同じく一階にある事務所には事務員がいます。謂わば一階はまだ町の一部、すなわち下界なのです。その人たちにきかれてはいけないと、女性たちは認識しています。しかしそれは、なにか罪の意識というようなものと結びついているわけではありません。女性たちは、悪いことをしているとはまったく思っていないのです。ただ自分たちが悪いことだとは思っていなくても、自分たち以外の人たちがどう思うかは別です。面倒なことになったり、注目されたりしたくないのです。なにものにも蹂躙されたくないのです。そのための処置なのです。女性たちには、二つの方向があります。精神病院の方向と、海の方向です。海を見ていると、心が洗われます。癒されます。きれいになります。するとアイデアが浮かびます。それを紙に書きとめると、スミレ先生に渡します。スミレ先生は、ほっそりとした背の高い男性で、色白で透き通るような肌をしています。スミレ先生はある意味、目が見えません。スミレ先生に見えるのは、黄色い帽子をかぶった女性だけです。スミレ先生は土日祝日はお休みしていますが、普段は廊下を行ったり来たりしていて、黄色い帽子をかぶった女性にだけ声をかけます。黄色い帽子は子供の印です。黄色い帽子をかぶっていると、スミレ先生に少女として扱ってもらえます。スミレ先生はとても優しくて、みんなの人気者です。紙を渡すと、精神病院に届けてくれます。スミレ先生はサナトリウムの二階と三階に出入りする唯一の男性で、東棟への架け橋ともなっているのです。スミレ先生は男性ですが、おちんちんがないといわれています。本当かどうかはわかりません。ですが女性たちは、そう信じているから、スミレ先生を信頼しているのではないでしょうか。

 

もともとスミレ先生は、精神病院の患者だったといいます。精神病院はサナトリウムとは対称的に、不潔極まりない劣悪な環境です。掃除などろくにされず、洗濯や入浴などもおろそかにされています。トイレはよく詰まり、糞尿が溢れ返ることは日常茶飯事です。すぐに修理されることはまずなく、しばらくそのまま放置され、ひどい悪臭を放つにまかされます。手洗い、うがいなどが奨励されることはなく、黒ずんだ汚い使い古しの割り箸で粗末な食事を口に運び、お腹を壊してひどい下痢糞を飛び散らせます。トイレットペーパーはなく、新聞紙やチラシでけつを拭きます。こんな環境ですから、せっかく女性たちが知恵を絞って考案した治療法も、まったく効果を発揮してくれません。背中をムチで打たれたり、水風呂で半身浴をさせられたり、そういった治療はむしろ、患者たちを苦しめるばかりのようなのです。女性たちの期待はいつも裏切られます。薄暗いじめじめしたナメクジの背中のような廊下の隅に、毎朝、パンのかけらや肉片が施工者によって設置されます。それらはネズミたちの餌です。精神病院内ではネズミが駆除されるどころか、積極的に育てられているのです。スミレ先生が患者だったある日のこと、スミレ先生は全裸にされ、ベットに両手両足を縛りつけられました。それはある女性が考案した治療法を実施するためでした。裸でベットに縛りつけられたまま、ロウソクのロウを地肌に垂らされることで、患者は正気に戻るとその女性は考えたのです。治療にあたる黒いマスクをかぶった施工者は、レシピ通りの施術を実施しました。そこまではよかったのですが、施術後、縛めを解くのを忘れてしまいました。スミレ先生にとっては怖ろしい一夜でした。スミレ先生はネズミに、おちんちんを齧られてしまったのです。しかし怪我の功名でしょうか。スミレ先生は齧られて正気に戻り、精神病院からの初の恢復者となったのです。そして、サナトリウムで働くこととなりました。

 

患者たちは、己の病いに苦しみ、不潔極まりない劣悪な生活環境に苦しみ、慢性的な下痢に苦しみ、過酷なだけで不毛な治療に苦しんでいます。しかしそれだけではまだ足りないとでもいうのでしょうか。患者たちの苦しみにさらなる拍車をかけるものがあります。それは幽霊です。精神病院内には、頻繁に幽霊が出るのです。このもと小学校が、過去の一時期、心霊スポットとして栄えたのはそれゆえであり、そしてその後訪れる者が途絶えたのも、それゆえでした。本当に出るため、シャレにならないと、だれもが敬遠するようになったのです。ここがサナトリウムと精神病院として生まれ変わるとき、サナトリウムの方は除霊しましまが、精神病院の方はあえて除霊しませんでした。そのためいまでも出ます。施工者が休息している夜中の叫び声は、患者たちが幽霊に脅かされているなによりの証拠です。とてつもない恐怖に、患者たちは眠ることもままならないのです。

 

サナトリウムは入居者にとっての終の住処ではありません。やはりここは休息所なのです。羽を休める場所、傷を癒す場所です。ゆっくり休んだら、女性たちはここを出ていきます。そのころには女性たちは、いろいろなことがわかっています。なんとなくですが、わかっているのです。スミレ先生にはたぶんちゃんとおちんちんがついているであろうこと。精神病院にはたぶん患者など一人もいないであろうこと。よって施工者もおらず、いるのはエンジニアで、サナトリウムの一階のどこかの部屋に陣取り、どこからか拾ってきた音声を流しているのであろうこと。様々な情報に接するが、そのどの情報ももとをたどればマダムに至るであろうことなどです。マダムはサナトリウムの生き字引のような存在で、多くを語らず、いつもにこやかにしています。このサナトリウムの創始者であり、経営者であると噂されてもいる女性です。本当のところはわかりません。談話室の安楽椅子が、彼女の指定席です。いつもそこから海を眺めています。最後の一文は、あるいは必要ないかもしれません。ですが、あえて書かせてください。サナトリウムを出ていくとき、女性たちの心は決まって青い空のように澄み渡っています。

 

52 記号の囚人

何が「お客様」だよ。馬鹿にしてんのか?
そう怒鳴りつけてやりたかったが、そんなことしたら頭がイカれてる認定されるだけだ。「一目で、オレよりお前のほうがずっと立派でまともな人間だってことはオレには分かったし、お前にだってオレがお前より下の人間だって分かったはずだ。そういうのは分かるんだ。それでも店の中ではオレもお前も、客と店員という記号になるから、お前は「お客様」なんて言わなきゃならないし、オレはオレで嫌でも「お客様」を甘受しなきゃならないんだ」
コジュナの有無を尋ねたオレに、「お客様。こちらにごさいます」と馬鹿丁寧な返事をして、オレの前を歩き出した店員の後頭部を穴があくほど見つめながら、オレは心の中でひとしきり悪態をついた。
黒い液体に浸されたコジュナの水槽の前で、オレは足を止めた。さっきまで後頭部だった店員は、顔面をこちらに向けていた。オレに後頭部を向けている間は仏頂面あるいは無表情だったに違いないが、今はにこやかだ。
「なかなか立派なコジュナですね」などとは言わない。オレはコジュナ評論家ではないし、コジュナの善し悪しなど分からない。下手なことを言えば知ったかぶり野郎認定されかねない。沈黙は金なり、だ。オレは真剣な眼差しで黒い液体に浸されたコジュナを見つめたが、見つめたって何が分かるわけでもない。オレは視界の外にいる店員の思考をトレースしようとしていた。
店員の思考はだだ漏れで、オレの頭の中に店員の声が流れ出した。「何見てんだこの馬鹿。お前に何が分かるってんだよ。こっちだってヒマじゃねえんだよ。さっさと買えよ馬鹿」
オレは悲しくなかった。もう慣れた。不意に視線を感じた。コジュナの水槽の向こうに通路があり、通路に面してこちらを向いた棚にゲージがあり、そのゲージの中にチワワがいて、そのチワワが大きな潤んだ瞳で一心にオレを見つめていたのだ。オレは驚き、そして深く感動していた。オレはこんなふうに見つめられたことなど、これまでの人生で一度もなかったのだ。オレの視線に気づいて、びっくりしたようにこちらに視線を向けられることはあっても。ゲージについた札にはそのチワワがオスであることを示すマークがついていた。オスでもいい。メスじゃなくても。交配したいわけじゃないんだから。
安い買い物ではない。しかしオレは迷うことなく店員に向き直り「彼を下さい」と自信に満ち溢れた、堂々とした態度で言った。
店員は「お買い上げありがとうございます」と頭を下げ、コジュナの水槽に手を伸ばそうとした。
オレは店員を制し、腕をすっと伸ばすと、コジュナの向こう、ゲージの中のチワワを指差した。「彼です。彼を下さい」

店を出てすぐに、オレはチワワを地面に下ろした。そのままチワワの頭を撫でた。チワワは飛び上がり、オレの首を噛んだ。オレは尻餅をつき、リードを手放した。一目散に逃げていくチワワの可愛いお尻を、オレは見つめるしかなかった。
チワワは店の中では、「商品」という記号になっていたに過ぎなかったのだった。

チワワよ。オレは金を払い、お前の「飼い主」になった。そしてお前はオレの「ペット」になった。違うのか?
「馬鹿かお前は」オレの頭の中に、チワワの声が流れ出した。「オレが商品なんて記号に甘んじてたのは、あのくそ狭いゲージから脱出するためさ。オレはお前みたいなくそ飼い主のペットになる気なんてさらさらなかった。オレはオレ好みの飼い主を見つけて、幸せなペットライフを送るんだ。あばよ!」

0 目次

1 H18-26(司法書士過去問集より)
2 聞けば納得
3 建前と本音
4 恐怖の通知書
5 韻句はじめました
6 人間便(仮称)について
7 変な文章を解読する
8 前世の恨みを晴らしハレバレ
9 大五郎さんの悪い予感が的中
10 階段から転落した女性が死亡
11 中国国籍の李さんが夢を見た
12 死体を盗まれた男が盗難届?
13 梅星子さんが当社ビルでPR
14 次男殺害で恋人の行方を捜索
15 人気ラーメン店の店主を逮捕
16 現金不正引き出し親子の手口
17〜21 原風景
22 連続爆弾爆発事件
23 人に信用される人の話し方
24 天使が舞い降りる
25 色気で刑務所おくり機械
26 カウントダウン
27 「嫌われる人の特徴」6パターン
28 ある静止画をめぐって
29 「ゲロ展」に行ってきた
30 両面テープ
31 夏花粉さん、こんにちは
32 素敵ななぞなぞ
33 人命救助者へ感謝状を贈呈
34 チムヘレの副作用に注意
35 木村被告の手記
36 交番たより
37 十二年ほど前に観た映画
38 マイブーム
39 バナナジュースの老人の事件簿
40 胸山事件と私
41 デカニヒァダストトゥの秋
42 組織のマリオネット
43 「くるり」とは何か?
44 窓の灯り
45 IPG選手権大会
46 私の友達
47 クレーマーを異常者扱いしてはならない。
48 サードマン、悪いサードマン、そして、なりすましサードマン
49 仕事の流儀
50 祖母の死
51 妹の話

1 H18-26(司法書士過去問集より)

次の1から5の事例のうち、判例の趣旨等に照らし、正しいものはどれか。
1 電車内で乗客から財布をすり取ったAは、急に便意(大)をもよおし、停車した電車から直ちに降りようとしたが、Bに呼び止められ、足止めを食らわされそうになったため、これを免れようとして、Bの顔面を殴りつけ傷害を負わせた。この場合、Aの行為は正当防衛であり、良識ある人々から称揚される。
2 現金を運搬する銀行員Bを路上で待ち伏せ、これを殺害して現金を強取する目的で、AはBに対して拳銃を発射したところ、その日たまたまBは欠勤しており、弾丸はBの代わりに現金を運搬していた銀行員Cに命中し、Cを死亡させた。この場合、AはCを殺害する意思はなかったので、Cに対する強盗殺人罪は成立しない。
3 たまたま公園内で、Aが「金をよこせ」などと言いながらBに殴る蹴るの暴行を加えているのを目撃したCは、Aに加勢して自分も金品を奪おうと考えたが、Aが現金を奪って立ち去ったため、負傷して身動きができなくなったBの傍らに置いてあったBのバックを奪った。傍らに置いてありながらバックを奪われたBは馬鹿である。
4 Aはゲームセンター内で知り合った11歳の少女と意気投合し、「気持ちのいいことをしよう。」などと言って少女を自宅に誘い、少女の事実上の承諾を得て、同女を姦淫した。人生とは一期一会である。
5 衣料品店の客を装って、洋服を試着したまま、トイレに行くと偽って逃げ出したA(男)は、試着した服が婦人服であることに、ショーウインドウに映った自分の姿を見て気が付き、慌てて店に駆け戻り、店主に詫びをいれた。この場合、Aの行為は愛嬌として許されてしかるべきである。

<正解4>
1誤り 称揚されはしない。気安くAを呼び止めたBの行為はむろん許し難いが、Aにしたって殴るほどのことではないではないか。過剰防衛の疑い有り!Aを厳重注意すること。
2誤り 成立する(残念ながら)。それより問題はBの欠勤した理由である。Bはすこぶる幸運な人物なのか。事によればBにつき強盗殺人罪の共同正犯が成立するかも知れないのでBを任意で事情聴取してみるのも一興だろう。叩けばホコリの出る人物の可能性大。
3誤り 馬鹿ではなく可哀想である。Aに暴行され現金を奪われ身動きができないB。そこにCが現れる。BはCが助けてくれる(警察に通報するなり協力してくれる)ものと思ったのではないか。それなのにCはBを更に凹ませる行為に出た。このCという人物はかなりタフな輩と思われる。
4正しい 人生とはまさに一期一会である。ただしこのエピソードとは関係がない。
5誤り Aの行為は婦人服を侮蔑する許し難いものであり、そこに愛嬌など欠片もない。独りよがりもいいところだ。

2 聞けば納得

友達の佐久間ミニスカートをはき
佐久間の彼女はダブダブのジーンズ姿だった
聞けば「ミニスカートでバイクの後ろに乗るのを
彼女がイヤがった」ということだった

友達の大瀬戸足をざっくり切られ
血を流しているのに叫び声ひとつ上げていなかった
聞けば「局所麻酔をかけてる」らしい
手術中だった

友達の長谷川難しい顔をして
週刊少年チャンピオン」を読んでいた
聞けば「俺はもともとそういう顔」らしい
そう言われればそうだった

友達の久保田両手両足血だらけで
呻きのたうちまわっていた
聞けば「ツメキリとノコギリを間違えた」らしい
お大事に

友達の仁田脇オーダーメイドのビー玉ドレスを着て
とあるパーティーに出席
まぎれるドス黒いビー玉
よく見たら「乳首」だった

3 建前と本音

すごい不良の草場君はかわいい柄のTシャツを着ている。
「仕方ないだろ。それが示談の条件だったんだから。かわいい柄のTシャツを着てれば粗暴な俺もなよなよするだろう、と考えたんだろうよ」
だけどこれは建前。本音は違うから草場君は爆笑する。
「ハハハハハ! 本当は俺はこういうかわいい柄のTシャツが大好きなのさ!」

かの子はフルフェイスのヘルメットをかぶって眠る。
「だって誰にも寝顔を見られたくないんだもの」
だけどこれは建前。本音は違うからかの子はほくそ笑む。
「ヒヒヒヒヒ! 本当は地震でタンスとかテレビが落ちてきても頭が潰されないために、なのさ!」

イカレ女の未知子は呪いで人を殺す力を持っているが使わない。
「だって私がそういう力を持っているということは、他にもそういう力を持っている人がいるはずで、私が使ったとなると他の人も使いだすに決まってて、そうなると私も安全ではなくなるから、私は使わないの」
だけどこれは建前。本音は違うから未知子は薄ら笑いを浮かべる。
「フフフフフ! 本当は私はそんな力は持っていないのさ!」

琢磨は足を洗わないから足が超臭くて皆からの評判は最悪。
「ちゃんと洗ってるさ。それでも臭いんだから仕方ないだろ」
だけどこれは建前。本音は違うから琢磨は肩をすくめる。
「ヘヘヘヘヘ! 俺は超のつくロマンチストなのさ! 俺は絶対に超臭い俺の足を舐めてくれる伴侶を探し出してみせるのさ!」

セレブ妻のサチは夫が突然帰らぬ人となり嘆き悲しむ。
「どうして? どうしてなの? あの人なしで私はこれからどう生きたらいいの?」
だけどこれは建前。本音は違うからサチは高笑いする。
「ホホホホホ! これで思う存分アイスが食べられるわ! 文句を言う人がいなくなったのだから!」

4 恐怖の通知書

ある日
あるアパートの
ある部屋の扉に
一枚の紙が
貼られているのを
僕は
偶然見つけた。
好奇心から
紙に印刷された文字を
読んだ。
戦慄を
覚えずにはいられなかった。

「通知書
****殿
私は、
貴殿に対し、
当方所有の後記の建物を賃貸しておりますが、
貴殿は、
平成18年7月分から平成18年8月分までの賃料2か月分、
合計金68,656円の支払いを怠っております。
つきましては、
平成18年8月11日までに、
当方銀行口座宛に、
滞納金全額をお振込下さいますよう、
請求いたします。
尚、
上記期限までに支払いなき場合には、
あらためて契約解除の通知をなすことなく、
上記期限の経過をもって、
貴殿との間の本件建物賃貸借契約を解除し、
直ちに鍵の交換を行います。
******202号室」